4.学力と思考力は違う

 

 両親が世田谷区で自営業をしていた時、「サラリーマン×党」に持ち上げられて、父が区議会選挙に出馬したことがあった。

 

 この時も資金集めと宣伝を兼ねていいように使われたようだ。私有の車を中古のワゴン車に買い替えさせられ、大きなスピーカーを8個も付けて選挙の宣伝カーにさせられた。

 

 そして宣伝カーで選挙運動に出ても誰も応援に来ない。父と私の二人で団地を演説して廻った。人口が密集していると思ったからだ。

 

 

 しかし、昼間に行っても主婦はパートで家にいない。

 

  「現在、日本の労働者の七〇%はサラリーマンです。サラリーマンは最も正直な納税者です。大切な給料から確実に天引きされるサラリーマンの皆さん。こんな不公平な税制を是正しましょう。サラリーマン×党はサラリーマンの味方です」などと自営業をしている父がマイクを持って演説した。

 

  寄ってくるのは小学生以下の子供ばかり。そのうえ「お菓子は配らないの?風船ちょうだい。」最初に500万円払ったらしい。そのうえに1000万円必要だと言われ、さすがに母と私で猛反対してとめた。党首は東大卒のようだった。ほかにも原野商法に引っかかりそうになったこともあった。小さいことを言えばきりがない。

 

 

  両親は学校では勉強がよく出来たかも知れないが、社会では全く世間知らずだった。

 

 私は、冗談でなく母の言うホワイトカラーとは、襟を汚さず机上の計算をするだけで実入りが少ない階級なのだと思っていた。そのうえで、親を超えるにはお金を儲けるしかないと思っていた。そうすれば少しは私を見直してくれるだろう、学歴だけが全てだなんて言わなくなるだろうと真剣に考えた。

 

 しかし、今思えばやはり学校に行って、勉強が出来る時に勉強に専念するべきだったと思う。社会に出ると生活していくだけで精一杯で、お金に余裕でもないと勉強したくてもなかなか時間がとれない。そう思うと今では勉強が嫌いではない。あんなに学歴を毛嫌いしなくてもよかったのではないかと思う。今、学生時代に戻れたらきっと一生懸命勉強するだろう。

 

 趣旨はどうあれ、やはり親の言うことは聞いておくものだ。学歴も教養も邪魔にはならない。今はただ学生時代に無駄遣いした時間を悔いる。

 

 父はさすがに東大卒だと思うくらい雑学の引き出しは豊富で、何を聞いても直ぐ答えが返ってきた。文字通り「歩く辞書」のような人だった。私はよく「歩く辞書」のお世話になった。父は辞書とは自分で引かないと自分のものにならないとよく言っていた。確かに言われた通り何を聞いたのか全く記憶にない。確かに全く自分のものになってない。