そんなある日、救急車から電話があった。
「○○さんのお宅ですか。娘さんですか。お父さんが駅前で倒れたので、病院に運びます。ご本人がO病院をご指名されているのですがそれで宜しいですか?」
「はいお願いします。これから病院の方へ行った方がよいですか?」
「いや、ご高齢なのでご家族の方に同行してもらいたいので駅まで来てください」
「分かりました。すぐ行きます」
自転車で駅に飛んで行くと救急車を呼んでくれた親切な男の人がいて、父の頭には水で濡らしたハンカチが置かれていた。
「すいません。お世話になりました。ハンカチ洗ってお返しします」
「いえ、このままで結構です。急いでいるのでこれで失礼します」
「あの、お名前と電話番号教えて頂けますか。お礼をしたいので」
「いや結構です。急いでいるものですから」
「本当にありがとうございました」と言うか言わないかくらいにもう駅の中に入って行った。余程急いでいたのだろう。本当は関わりたくなかったろうに悪いことしちゃったな。
周りはかなりの人だかりになっており、狭い駅前の道は車が渋滞していた。周りの人にお礼を言い救急車に乗り込んだ。父は思ったより元気で、転んだ経緯を話し始めた。
「駅の歩道の段差で足がもつれて転んだ。あっという間で、腰から転んだみたいだ。腰が痛い。親切な人がいるものだな。腰を打ったのに頭を冷やしてくれたのだから」
「何を言うの。さんざん色んな人に迷惑掛けて。ハンカチ貸してくれた人はかなり急いでいたのにお父さんに引っかかっちゃって。かわいそうに。救急車まで呼んでくれたのよ」
「そうか。それは悪かったな」
父は妙に素直な時もあるのでこちらは調子が狂う。
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