17.初めての介護にてんやわんや

 

 

 父が寝たきりになってから母との言い争いが更に増え、ギスギスしてきたみたいだ。私もどうやって母に思い直してもらえるのか分からず、母の話をゆっくり聞いて上げる余裕もなかった。

 

 そんな思いをよそに、「おーい病院に行くぞー。一人では行けないのだから手伝ってくれてもいいじゃないか。家族じゃないか。歯医者も行きたいし、内科と整形外科と眼科と皮膚科も行かなくちゃ」

 

 

 父ったら一人では何も出来ないくせに本当に偉そうだ。何で自分が何かしてもらいたい時だけ家族という言葉を使うのか。何て勝手なやつだ。

 

 父が外に出るためには母と二人で父を担いで階段を降ろしたり上げたりしなくてはならないのだ。

 

 実際、父は寝たきりなので訪問看護を頼めるのだ。

 

 内科や皮膚科などは父を連れてくるのは大変だから家族が薬を取りに来るだけでよいと言われている。父が病院に行く必要は全くない。歯医者さんからはもう削る所がないし、これ以上いじったら入れ歯が壊れてしまうと毛嫌いされている。父は行くとすぐ腰が痛いとか言い出しどこにでも横になってしまうし、口が達者でうるさいのでどこに行っても嫌がられる。

 

 それなのに一旦病院に行くと言い出すと、どんなことをしてでも自分の思いを通そうとする。人の話は全く聞こうとしない、頑固じじぃになってしまうのだ。「死んでも一人で行く」と言い出す始末である。

 

 

 母と二人で大変な思いをしながら階段を降ろしたり上げたりする日が増えていった。

 

苦労して階段の上げ降ろしを続けたからだろうか、皮肉にも父には良いリハビリになったようだ。

 

  父は赤ちゃんの成長過程のようにはいはいをしながら、少しずつ立てるようになって来た。父の部屋の隣にあるトイレまで一人で行けるようになったのだ。

 

  大変な進歩である。下の世話は父がオムツを嫌うので漏れないシーツを敷いて、尿の時は尿瓶を使っていた。便の時はトイレまで母と私で連れて行く。一人でトイレに行ってくれるだけで洗濯の量が違う。さらに自力で行ってくれれば、私達も少しは楽になる。大変だったが悪いことばかりではなかったと思ったりもした。

 

 

  父が元気になり始めたのは喜ばしい事だ。しかし、今度は夜中に杖でバンバン壁を叩いて皆を起こすのだ。

 

 

 「一寸質問がある。内科の先生の名前は何と言う人だったかな」とか、

 

 

 「一寸質問がある。この家の住所と電話番号を教えてくれ」

 

とか言い出す。夜中に質問することではないだろう。父は昼間寝ているからよいが、私達は睡眠を妨害されて寝不足だ。

 

 

 「昼間なら何でも質問してもよいけど、夜中はやめてよ。お願いだから寝て」と何度言いに行ったことか。そのうち母は夜中には何があっても自分の部屋から出て来なくなった。そんなことを繰り返すうちに父はどんどん元気になっていくようだった。