18.苦労の甲斐あり・・・

 

 

 父は杖を付けば外で歩けるほど回復してきた。そのうち一人で近くの病院位までは行けるようになった。

 

 

  ある日のこと、病院の帰り道にご近所のIさんとの立ち話でマージャンの話になったらしい。Iさん夫婦は二人ともマージャンが大好きだと言うのだ。

 

  父はサラリーマン時代から趣味はゴルフとマージャンだった。最近では相手がいないし、寝てばかりだったのでプレイステーションのマージャンゲームに凝っていた。

 

  寝ていても出来るというので、ゲームボーイのマージャンゲームも持っている。父としてはちょうどいい相手ができたとばかり、すかさず「うちは娘もやりますから4人揃います。私の家でやりましょう」と誘ったらしい。Iさん夫妻も相手が欲しかったらしく、話が出て1週間もしないうちにわが家でマージャンをすることになった。

 

  私達が越して来てから1年半くらい経つが、ご近所の人が遊びにきたのは初めてだった。それから毎週金曜日はマージャンの日となった。この頃が父には一番楽しい時期だったかもしれない。

 

 

  Iさん夫婦は穏やかでとても感じがよく、マージャンの腕前も中々のもので、特に旦那さんは細かく確実に上がり、振り込みもほとんどなく、手堅いマージャンを打つので必ずトップか2位で納まっていた。逆に奥さんの方は綺麗な手で大きい得点のものを狙うので、つきが回り出すと止まらない。

 

  奥さんは余程慣れているのか計算に強いのか、点数計算がずば抜けて速い。聞いてみると、元々は銀行に勤め、いまでも会計士の仕事を頼まれるらしい。

 

 

 父も一応点数計算をしたがるが、私にも分かる位のいいかげんさだ。父は老人ホームにいた時も仲間を集めてはマージャンをしていたらしいが、その時は負けると点数のことで喧嘩ばかりしていたらしい。

 

 母は「ご近所の人と喧嘩にでもなったら、またここに住めなくなるのでは」と心配していたが、Iさん夫婦の人柄の良さで喧嘩にはならなかった。何回か父がイチャモンを付けたことがあった。父が振り込んで、奥さんが満貫だと言った、とたん「それは満貫にならない。どう数えても3900点だ」と言い張った。

 

 この時も奥さんは父の言い分をこの時もあっさり通してくれた。そのほかにも振り込んだ牌をすぐ引っ込めて違う牌を出す。父はずるい事を平気でやるのに対し、奥さんがいつもニコニコと許してくれたので長続きしたのだ。本当に出来た人達に恵まれたと思った。