22.告知 悪性リンパ腫

 

 

 お正月も終わり父の検査が再開した。胃潰瘍にしては中々小さくならないので、細胞を検査することになった。

 

 病理組織検査は他の機関に回すので直ぐには結果が分からなかった。入院も1ケ月を過ぎるとそろそろ父は帰りたいと言い出した。しかし、胃潰瘍は入院した当初より大きくなっているので、さすがに今回は父の言う通りには出来ない。

 

 毎日父をなだめに行った。

 

 入院2ケ月位で、結果が出たから来て欲しい、と連絡が入り、母と病院へ行った。お正月過ぎから新しい先生に代わっていた。30代のがっちりしたお坊ちゃまといった感じで、人の良さそうな先生だった。話しやすそうな先生だった。

 

 

 「今年から○○さんを担当しますSと申します。やっと生検の結果が送られて来ました。実は○○さんの胃の潰瘍は悪性のものでして、正確な病名は悪性リンパ腫です。

 

  血液系の癌と考えられます。この病院にも毎週月曜日に血液内科の先生が大学病院の方からいらしてます。その先生から詳しく説明してもらいましょう」

 

 

 血液内科の先生を紹介された。女性の若くて小柄ですっきりとした美人先生だった。

 

 

 「血液内科のNです。悪性リンパ腫の説明をします。だいたい発病例は二万人に1人位のものです。まあ珍しい病気と言えます。良性のものはありません。リンパ腫というのは悪性のものなのです。あまり聞き慣れない病名だと思いますが、血液系の病気で、白血病などと同じグループになります。固定癌とは全く別の種類のものです。固定癌からリンパ腫には転移しませんし、リンパ腫から固定癌には転移しません。                          

 

  血液は赤血球と白血球に分けられ、白血球は免疫系を司っています。癌と同じではっきりした原因はまだ解明されていませんが、何かの拍子に遺伝子に傷がついたり変形したりした時に起こることが最近分かってきています。何らかの原因で白血球の中のリンパ球が腫瘍化したものを悪性リンパ腫と呼んでいます。

 

  悪性リンパ腫の治療は主に化学療法で行います。固定癌と違うところは血液中のことですから全身に巡っています。一度発病すると色々な所に色々な症状が出る可能性を秘めています。だから固定癌の場合よりも化学療法が有効だと言われます。化学療法は血液を通して行われるので、全身に抗癌剤が効いてくれるからです。

 

 

 

 

  しかし、寛解しても五年間再発のないものを寛解だとしたら10人中1人という確率です。しかも5年生存率は極めて少ない」

 

 

 理論的に攻めてくるから、きびしい話だが飲み込みざるを得ない。

 

 

 「○○さんの場合は胃のリンパ球が腫瘍化したわけです。○○さんはご高齢で身体も衰弱しています。化学療法といってもリンパ腫は治ったが副作用の為に命は持たなかった、ということになりかねませんので治療は慎重に行わなければいけません。

 

  治療しないという選択肢もありますが、困ったことに腫瘍の出来ている場所が食道と胃の間の一番細くなっている部分なので、このまま腫瘍が大きくなると食道と胃の間がくっ付いてしまう危険があります。くっ付いてしまった場合は、食べ物も飲み物も口から入れられず、唾でさえ飲み込めなくなります。それだけは避けたいのです。

 

 

 いずれにせよ手術は○○さんのお年では無理なので、化学療法をお勧めします。しかし、寛解のための治療ではなく、延命のために食事を口からとれるようにするためのものです。化学療法は昔よりは良い薬が出来たとはいえ副作用は大なり小なり避けられません。やはり、ご本人に告知した方がよいと思います」