24.覚悟を決める

 

 

 「分りました。しかし、この病院では血液内科の入院施設がありません。この辺の病院では少し離れたところに専門科のあるR病院があります。紹介状を書きますのでそちらに入院をするのが良いでしょう。

 

  本人を連れて行く前にまずレントゲン写真とか資料を持って行って下さい。あちらの病院は予約制だと思いますのですぐに予約を入れて下さい」と、丁寧に紹介状を書いてくれた。

 

  帰ってすぐ予約をし、母と紹介されたR病院に行った。予約といっても初診なので色々と手続きがあり、先生に会うまでにかなり時間がかかった。やっと「○○さん。H先生の部屋へどうぞ」と呼ばれて診察室に入った。大きな病院なのに小さな診察室だった。若いのか年寄りなのか分からない一見冷たい機械的な感じのする先生だった。

 

 

 「父のことで来ました。化学療法を勧められました。本人には癌と告知したくないのですが」

 

 

 「それは無理ですよ。だって病室の人が皆同じ治療をしています。隠せるはずがないでしょう。それに髪の毛は抜けるし色々な副作用の症状が出てきた時、なぜこんなにつらい思いをしなくてはいけないのかという疑問も湧いてきます。そしたらもう治療したくないと言い出しますよ。何のためにするのか分らなければ治療拒否だって起こります。

 

  本人が嫌と言うのに無理やり治療は出来ません。本人が納得してくれなければ、私達は治療出来ないのです」

 

  そのH先生は父のレントゲンを診て「あ、肺もボロボロだ」と言った。

 

 

 「ここで治療したいなら、ちゃんと告知してから来て下さい」きっぱり言われた。

 

 

 「はい」と言うしかなかった。カルチャーショックだった。今現在の癌に対するスタンスを見せられたような気がした。最後の選択は本人に任せるということだろう。

 

  頭の固い父には通用しないのではないか。それでも父に告知するしかないのかと思いながら、母とがっくり肩を落として帰った。その足でS先生に会いに行った。

 

 

 「紹介されたR病院の先生は、血液内科で同じような患者ばかり扱っていて慣れているのでしょうか。かなり冷たい感じで、告知しないとこちらでは治療出来ない。ときっぱり言われました。S先生みたいに親身になってくれるような先生ではありません。私としてはS先生のいるO病院で治療してもらいたいです。向こうに行って良く分かりました。告知は当たり前のことだと言うことが」

 

 

 「そうですか。あの後N先生とも話し合ったのですが、そこまで言われるのでしたらここでお父さんの化学療法をしましょう。告知もそんなにしたくないのであれば、告知しない方向で考えて行きましょう」

 

 

 「有難うございます。宜しくお願いします。よかった。それなら早速父にある程度説明します。向こうであんなに割り切って治療したら、父がすぐに死んでしまうような気がしてしまいました。周りが皆同じ病気と思うと何だか、強制収容所のような、結核患者のように隔離されたような感じがしました。どちらがよいのか分かりませんが、少なくとも生死に関わる治療であればあるほど、心の通った治療をしてほしい。この病院で治療して貰えるならこんなに有難いことはありません」

 

 

 「治療方法としては、標準的なCHOP療法を行います。最初の1日目に内服薬を服用して貰います。その後5日間点滴をします。そして、3週間ほど休みます。これが1クールの行程で、6クール行います。○○さんの場合はかなり弱っているので量的には普通の人の半分位からスタートします。色んな事が起こるかも知れないのでその都度話合いながら行っていきましょう。では色々テストして1週間後から始めます」

 

 

 「宜しくお願いします」深々と頭を下げた。ほっと一息ついた感じだ。