38.堂々巡りの迷路

 

 

 母の手術は付き添いが必要なので、それまで父が入院できるようにO病院に行きB先生に頼みに行った。しかし、担当医が代わっていた。

 

 父は「新しい先生と話した。今度の先生は話の分かるよい先生だよ。あなたの肺は何ともないから歩きたいだけ歩きなさいと言われたし、近くの公園までなら一人で散歩してもよいと言われた。今日は車で来たのか。退院は今日でもいいと言っていたよ」

 

 

 「退院なんて聞いていないわよ。それに歩いてよいなんて、そんなばかな話絶対しないわよ。だって現に酸素を鼻から吸入しているじゃないの。それに杖を突いても2~3歩しか歩けないのに夢みたいなこと言わないでよ」

 

 

 「何を言うか。先生が確かにそう言った。退院してもいいと言っていた」

 

 

 「新しい先生に会ってくる」

 

 

 「○○子は余計な事をするな」

 

 

  どうなっているの。新しい主治医はN医大から来たY先生だった。ナースステーションで「Y先生にお会いしたいのですが」

 

 

 「連絡をお取りしますので病室でお待ち下さい」

 

 

 「父を外してお話ししたいのですが。父が変な事を言っているのでどういうことなのかお話をお聞きしたいのです」

 

 

 「では面会室でお待ち下さい」私の顔がよほど形相を変えていたのだろうか。看護師さんも顔が強張っていた。面会室で1時間ほど待たされた。Y先生は色黒で中肉中背、上背はないもののボクサーのようにがっしりした先生だった。看護士さんと二人で来て、空いた個室で話す事になった。

 

  私は開口一番、「父に一人で散歩してもよいとおっしゃったのですか。N医大に戻られたS先生が最初からずっと診てくれていました。父の病状の経過とか父の性格をよく承知しておられたので安心しておりました。しかし、N医大に戻られるので、その引継ぎということでB先生を紹介して頂いていたので、B先生が主治医だと思っていたのですがY先生が主治医だとベッドに書いてあったのでびっくりしました。父にどんどん歩いていいなんて言われたそうですが、突発性間質肺炎のことはご存知なのですか」

 

 

  私は、父が○○年に胃が痛くなり入院した頃からの経過を一通り話し始めた。父が言い出したら何があっても言う事を聞かない頑固な所が、あるが病院の先生の言うことは聞いてくれるとか、母が父と同じ悪性リンパ腫でR病院に入院しているとか、母は最初この病院にいて検査に時間がかかり過ぎ手遅れになる所だったこと、正月過ぎにR病院に連れて行こうと思ったら父が邪魔をしてすぐに連れて行けなかったこと、そのために父をここの病院に連れてきて入院させてもらったことなど、ありとあらゆることを話した。看護師さんと先生は目を丸くして黙って聞いていた。

 

 「それは大変でしたね。今回○○さんを受け持つというのでカルテもちゃんと目を通しています。今までの経過も私なりに把握しています。今のお話でより詳しく判りました」