45.お父さんお願い

 

 

 Kさんが開口一番に「お父さんを老健施設に預けたらどうでしょう。一生は預かってはもらえませんが、6ケ月は置いてもらえる施設があります」と言った。

 

 

 「そうできれば、その方が一番よいのですが父が行くと言ってくれるかどうか」

 

 

 「ご家族からの話より私の方からお話しましょうか」

 

 

 「難しいと思いますが、そうして頂ければありがたいです」ということでKさんの方から話をしてもらうことになった。

 

  父が良い返事をくれるはずがないと思っていたが、父は予想に反してあっさり老健施設に行くと言いだした。父はとても過ごしやすい所と勘違いしているとは思ったが、せっかく行くと言いだしたのだからこれを逃す手はないと思った。

 

  入所に当たって身上書と主治医の診断書など色んな書類の提出をして、良いということになったら、今度は面接をして、それもクリアしてから入所の順番待ちということになるらしい。入所希望の人が多くて順番待ちがほとんどらしい。

 

  幸い住まいのある所では新しい老健施設の建設が次々と進んでいる地区だった。面接をクリアすれば、すぐ入所出来る所があると言われたので早速必要書類をそろえた。色々な書類が必要で記入欄もかなりの量だった。基準がうるさいのだろう。

 

  家から車で15分位の所にあるK施設を紹介されたので、近場だし施設も新しくて奇麗だし決まれば良いなと思った。面接の日が決まり父を連れてK施設に向かった。程なく面接を良い雰囲気で終えてこのまま入所出来ると父も私も思い込んでいた。

 

  ところが1カ月以上待っても返事が来ない。母の病院の方からはそろそろ退院を考えてと言われ始めていた。ケアマネージャーに相談し結果を聞いてもらう事にした。返事は難しいと言うことだった。

 

 

 「駄目なら駄目でもっと早く言ってくれれば他の施設にも当たったのに」とKさんも憤慨した。

 

 

 理由として在宅酸素を指摘された。父は呼吸器で身体障害者一級となっており、常に酸素吸入を余儀なくされていた。それが医療行為だということが問題だったらしい。職員の少ない施設で見守りが行き届かないことと、認知症の人もいるのでチューブを外してしまうかもしれないからという説明を受けた。

 

 医療行為といっても、家族は医療資格がなくてもいいのに施設では認められないなんて不思議な気がした。それに父は何があっても酸素は命綱だと思っているので、自分で勝手に外すことはありえなかったし、認知症の人と同じ部屋にする方がおかしいと思った。しかし、何を言っても駄目なものは駄目らしい。

 

 

 しょうがないのでまた他の施設を紹介してほしいとKさんにお願いしたら、ケアマネージャーが区外の入所できる施設を探すことまで出来ないから、資料を送るので自分で一軒一軒電話して聞いてほしいと言われた。

 

 それで送られた資料の上から順に電話してみたが在宅酸素と言うだけで全て断られた。現在、在宅酸素を使用している人はかなりいるはずなのにと思った。デイサービスもショートステイもそんなことは何も言わずに看てくれたのに。

 

 

 

 

 父はわがままだが認知症の人よりはマシだと思う。気が収まらず区役所の福祉課に文句や愚痴たらたらの電話をした。福祉課の人はやさしい言葉で応対してくれ、最終的にはもっと範囲を広げた資料を送るので電話してみたら、ということになった。福祉課でも施設に問い合わせまではしてくれないのだ。